キャラソンのつもりで作るトランスミュージック
──『湾岸ミッドナイトMAXIMUM TUNE』シリーズのサウンドの特徴について教えてください。
古代祐三(以下、古代)「キャラクターの哀愁やバックグラウンドを意識したサウンドにしないと、それは『湾岸ミッドナイト』じゃないというのが、開発の方との共通見解です。ですので、そういうストーリー性とダンスミュージックをうまく組み合わせられるジャンルとしてトランスをベースにしています。このシリーズでは、曲を聴いた時に、キャラの顔がパッと頭に浮かぶようにしたかったんです。もはやイメージソング……いや、キャラソンに近いですね(笑)。原作ファンの方は、よりわかっていただけるものと思います」
──シリーズ4作目となる『湾岸ミッドナイトMAXIMUM TUNE 4』ですが、これまでのサウンドから一番変わった点はどんなところでしょうか。
古代「まずはボーカル曲が増えた点。そして2010年以降のエレクトリック・ダンスミュージックシーンを意識して、サウンドの質感を新しくした点です。ここ数年でコンピュータの処理能力が大幅に向上して、より高いサンプリングレートでミックスができるようになりました。最近のダンスミュージックにはとんがった音がすごく多いので、それを取り入れるように心がけました」
オリジナリティを生む、「ゲームミュージック」という縛り
──作曲する上で気をつけている点はどんなことですか?
古代「実は『湾岸ミッドナイトMAXIMUM TUNE』シリーズのBGMは、BPMを140から160くらいの、遅すぎず、速すぎないテンポに設定しているんです。原作が、やんちゃな若者が首都高をぶっぱなして一番を目指すというノリではなくて、物語のテンポもどちらかというとゆっくりで、チューナーの悲哀が描かれるような渋い世界観。自動車のスピードも重力や機械の重みが感じられるような作風なので、どちらかというとどっしりしたリズムのほうが『湾岸ミッドナイト』ぽいかなと思っているからです。なるべくそういう世界観から逸脱しないように気をつけています」
──苦労した点はありますか?
古代「ダンスミュージックは、音の抜き差しで盛り上がりを作っていくんですが、ハイハットやキックが途中で消えたりする曲だと、ゲームプレー時に盛り下がってしまうことがあるんです。もちろん、時と場合によりますが、そういう可能性もあるので音の抜き差しを極力しないというルールが『湾岸ミッドナイト』にはあります。でも、それができないとなると、ダンスミュージックの自由度が半分くらいそぎ落とされてしまうんですよね。ただ、アーケードゲームを運営するという立場から考えると、お客さんに違和感を与えることはよろしくないので、そういう縛りを設けた方がいい。自分もこの手のジャンルの音楽が好きなだけに、もっと自由に追求できればとは思いますが、ゲームミュージックとして成立させる上である程度線引きをしないといけない。この点に毎回悩まされています(笑)」
──ゲームミュージックならではの縛りは、作曲にどういう影響があるのでしょうか。
古代「この縛りにいい影響があるとするならば、オリジナリティが生まれるということではないでしょうか。ダンスミュージックの手法にいくらかのルールが加わるということは、自然にダンスミュージックとゲームミュージックの間をとった新しい雰囲気の音楽になるということだと思います。ファンの皆さんの中には、そのオリジナリティがいいと言ってくださる方が多いですね」
──そんな新しい音楽である本作のサウンドトラックの面白さはどんなところですか?
古代「アーケードゲームの性格上、一つ一つのシーンが短いので、前置きを抜いていきなりノリの良いところから曲が始まるところです。ダンスミュージックの場合、前置きが好まれることが多いですが、ゲームに使われる場合は前置きの間にゲームが終わってしまいます(笑)。全編がサビのような展開なので、普段あまりダンスミュージックを聴かれない方にも聴きやすいのではないかなと思います」
古代サウンドの原点に触れられる『湾岸ミッドナイトMAXIMUM TUNE 4』
──今回のサウンドトラックの聴きどころはどんなところでしょうか。
古代「かなりエッジを立たせた音質にした点です。今回のサウンドトラックは、最初に(ゲーム用に)納品した段階では、全曲を通して聴くと音が硬くて少し息苦しいという印象があったんです。このままCDにするよりも、今回のサウンドトラック化に合わせてミックスのやり直しと楽器の差し替えを少し行って、トータルで聴いた時に聴きやすくなるよう再調整しました。自分なりにCDとして長く聴けるようにするために、かなりマニアックに音質にはこだわりました」
── 一番の自信作はどの曲ですか?
古代「ボーカル曲はどれもお気に入りですが、旧作からの『湾岸ミッドナイト』らしさを残しているという意味では『No Turning Back』。新しいことをやった曲としては、『Re-Birth』がお気に入りです。『Re-Birth』は結果的にレディ・ガガみたいな曲になりましたが(笑)、この方向でもう何曲か作りたいですね」
──古代さんといえばゲームミュージックファンの間では、どちらかというとプログレやハードロックのイメージが強いと思うのですが、全編ダンスミュージックという『湾岸ミッドナイト』シリーズのサウンドは古代さんの中でどういう位置づけなのでしょうか。
古代「実は昔からユーロビートやダンスミュージックをゲームミュージックでやっていたので、自分としてはずっとやっていたことの延長線上にあります。それにYMO世代なので、元々こういうサウンドは好きなんですよ。電子音好きが高じてゲームミュージックも好きになったようなものなので、最初に自分がいた場所に戻ってきたという意識が強いですね」
──ということは、『湾岸ミッドナイトMAXIMUM TUNE』シリーズには古代サウンドのルーツが詰まっているとも言えますね。
古代「そうですね。だから今回のサントラでも細かいところまでこだわって、アーケードで入れられなかった音をアナログシンセで差し替えたり、楽曲により変化を付けるために楽器を差し替えたりとか、完全に自分の趣味でやりました(笑)。ゲームミュージックは、仕上がるまでは「これでOKが出るかな?」と思って探りながら作るので、自分の思い通りに作ることはなかなか難しいんです。でも今回のサントラでは、時間をいただいてCDの作品ということを意識して作業ができました。私としてはこれが完成版のようなものなので、将来的なアップデートでアーケードの方へも入れていただきたいと思っています」
──最後にユーザーの方へのコメントをお願いします。
古代「個人的には、『湾岸ミッドナイトMAXIMUM TUNE 4』がシリーズの中で一番好きです。初めてプレーする方にとっては一番プレーしやすいんじゃないでしょうか。特にリアルな首都高を爆走できるのがすごく気持ちいいんですよ。だから、まず一度ゲームを体験して、その上でサウンドトラックも聴いて楽しんでいただけたら本望ですね。ゲームと原作を意識して全ての曲を作りましたので、ゲームと一緒に作品を堪能していただきたいと思います」
■作品情報
「湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE 4 ORIGINAL SOUNDTRACK」
音楽: | 古代祐三 |
発売中 | 品番: LACA-9235~9236(2枚組) 税込価格: 3,300円 |
発売元 | 株式会社ランティス |
販売元 | バンダイビジュアル株式会社 |
ランティス公式サイト | http://www.lantis.jp/ |